Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
「少しはカチュアのことも考えたらどうなの!
あなたが死んで、カチュアがどれだけ悲しむと思ってるの!!」
ジルは最後の思いでそうぶつけた。
すると、ジルの腕を放そうと抵抗してもがいていたクリストファーの力がふっと抜けた。
そしてクリストファーは、対岸へと渡ったカチュアへ視線を送る。
もの悲しげだが、愛しい人に送る瞳…。
クリストファーは微かに笑みを浮かべた。
その表情を見てジルはホッとした。
自殺を思い留まってくれたようだ。
そうなれば、一刻も早くこの橋から引き上げよう。
痺れる右手にぐっと力を込めた。
「…、の……なら、……んだ…が、……だ…」
クリストファーが微かに紡いだ言葉が耳に入ってきた。
え…、今、なんて……。
『姫の、ためなら、死んだほうが、いいんだ…』
その言葉に、一瞬気を取られたとき、クリストファーは片方の腕を自分の額に翳した。
人差し指と中指を立て、気を集中させる。
仄かに指先が光を帯びた。
「君を巻き添えにして、すまない」
クリストファーはそう言うと、翳した指を吊り橋に向けて薙いだ。