Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
身体を乗せている場所が崩れていく感覚にジルはハッとした。
スルリと抜け落ちたクリストファーの腕。
もう一度掴み直そうと腕を伸ばしたが、掴むのは空ばかりだ。
吊り橋を支えていた蔓が見えない刃に斬り落とされ、端が真っ二つに裂かれる。
橋は両側の岸壁に向かって崩れていく。
まるで振り子に振られるかのように。
空中に放り出されたクリストファーは笑っていた。
重量に逆らうことなくその身体を預ける。
上に流れていく岸壁の先にカチュアの姿を捉えた。
彼女は何か叫んでいるようだ。
風を切る音に彼女の声は掻き消される。
そして、脳裏には笑っている父親の姿が映った。
その父親に応えるように、クリストファーは満足そうに笑みを浮かべた。
崩れる足場にジルは蔓を掴む手に力を込めた。
視界の端にクリストファーが谷底へと放り出された姿を捉えるがどうにもならない。
爪先を板へと掛ける。
水平だったそれは、角度をつけて斜めに、垂直へと移っていく。
掛けた足の重みに耐え切れず、板がバキリと破れる。
ガクンと落ちた身体を必死で繋ぎ留め、更に上にあった板の隙間に爪先を通した。
ジルの目の前に、吊り橋の踏み板の隙間を通して岸壁が迫りくる。
ジルは衝撃に身を構えた。