Red Hill ~孤独な王女と冒険者~

ローグが対岸へ渡り終えたとき、それは起きた。


谷底へ身を投げようとしたクリストファーをジルがかろうじて留める。


クリストファーは吊り橋の下で宙ぶらりんになった。


苦痛に顔を歪めたジルがその腕を掴んでいる。


助けに行こうと橋に足を掛けたとき、突如として吊り橋の蔓が支えをなくしたように真っ二つに裂けた。


真っ逆さまに谷底へと堕ちていく薄い紫色のローブと、裂けた蔓にしがみつくジルの姿を目に捉えた。


手を伸ばすジルの先にクリストファーはいない。


その動作はスローモーションのようにゆっくりと、瞼の裏に焼きついていく。


一瞬の間の後、崩れいく橋と共に、二人の姿はローグの視界から消えた。



大きな音を立てて、崩れた吊り橋が岸壁にぶつかると、いくつかの踏み板が弾け飛び、残骸を撒き散らしながら谷底へと落ちていく。


それと同時に、眼下で大きな水飛沫が上がった。


薄い紫色のローブが何度か浮き沈みした後、激流に呑まれて勢いよく下流へと運ばれていく。


「クリスっ。クリスーー!」


対岸から一部始終を眺めていたカチュアが、身の危険も顧みず、谷底へ向かって走り出す。


ローグはそれを身を呈して制した。


「離してっ。クリスが、クリスがーー」


ローグの腕を振り解こうとカチュアは暴れる。


「落ち着け。カチュア!」


ローグはそう言ってカチュアを宥めた。


取り乱しても仕方のないことが起きたのだ。


それは分かっているが、ここでカチュアを離して後を追わせる訳にはいかない。

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