Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
「カチュア、元気でね」
馬車に乗り込もうとするカチュアの手をジルはギュッと握った。
「えぇ。ジル。いろいろとありがとう」
ここ数日、泣き腫らしてよく眠れていないのだろう。
彼女の目は真っ赤で腫れぼったい。
だが、意志の強い瞳でカチュアは言った。
「お父様とは、ちゃんと向き合って話をしてみるつもり。
お父様のしたことは決して許されることじゃないもの。
国民からの信用はなくなってしまうかもしれない。
でも、きちんと責任は取らないとね。
何年掛かってでも信用を取り戻して、イスナを再建させてみせる」
自分の気持ちや感情よりも、国のことを優先させようとするのは、やはり王女として生まれた性なのだろうか。
すぐに悲しみは癒えないだろう。
だが、その悲しみを乗り越えて頑張ってもらいたいと思う。
「落ち着いたら手紙を書くわ、きっと。
その時は遊びにきてね。必ずよ」
そう言って彼女は行ってしまった。
ジルは大きく揺れながら遠ざかっていくレンガ色の車体をいつまでも見送った。
見えなくなっても、しばらくそのまま立ち尽くしていた。