Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
村の奥手にあるかすみ荘。
その家屋が見えてきた辺りでローグは足を止めた。
急に止まったので、斜め後ろを歩いていたジルはローグに鼻をぶつけてしまった。
「ど、どうしたの?」
鼻をさすりながらローグを見上げ、彼の視線を追う。
答えはすぐに分かった。
イスナ国王女ご一行様を乗せてきた馬車が、かすみ荘の母屋の隣にある庭に静かに佇んでいた。
よくよく考えてみれば、村長の家は王女様ご一行を泊められるほど広くはない。
必然的にスコットの宿に泊まるのとに、なるのだ。
心配することはない。
そう言っていたローグも、やはり関心はあるようで、
「おい。あれかよ?」と、視線を馬車に向けたままジルに問うてきた。
返事の代わりにコクンと頷く。
そのすぐ後に、
「王女様って、やっぱ、綺麗なんだろうな……」
何かいい想像を膨らませるようにローグが呟いたのを耳にして、ジルは半ば呆れるように大きな溜め息を吐いた。
馬鹿じゃないの。
王女様はまだ10代よ。
ローグってばロリコン?
ローグに対して白い視線を送っていると、それに気づいたローグは罰が悪そうに「な、なんだよ」と咳払いを交えてジルを見下ろした。
「べーつにぃ」
言いたいことはあるが、あえて言わない。
ジルは意味深にそれだけ言うと、ローグを追い越してかすみ荘へ近づいた。
そんな態度の自分をローグは咎めることなく黙ってついてきているようだ。
少し離れてローグの足音が聞こえてくる。