Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
馬車の脇を通り、玄関へと足を運ぶ。
陰になっていて気がつかなかったが、一人の男が白馬の鬣を梳いてやっているのが見えた。
サダソでも、あの兵士でもない。
薄い紫色の丈の長いローブを着た銀髪の男。
馬車に取り付けられたランタンの灯りが、その姿をほんのりと照らす。
ジルが王女の馬車を出迎えたときにはいなかった。
初めて見る男だ。
きっと、後から合流したのだろう。
彼はジルたちに気がつくと軽く会釈した。
色白で鼻が高く、目は藍色。
なかなかの男前だ。
その笑顔にジルは少しドキリとした。
王女様ご一行に対し、その本人を目の当たりにして、根拠のない不安を募らせた自分がなんだか申し訳なく感じる。
軽く会釈を返し、引っ込むようにかすみ荘の中へ身体を運んだ。
後からまた他の護衛が合流してくるとはどういうことなのだろう?
ジルは考えを巡らそうとして、やっぱりやめた。
そう、気にすることなどない。
考えれば悪い方に思考がいってしまいそうだ。
いや、いってしまうだろう。
そんなことをしても気持ちが沈むばかり、仕方がない。
ローグも心配ないと言っていた。
もう考えるのはよそう。
ジルは意識的に王女たちのことを思考から締め出すと、食事の前に汗を流そうとシャワールームへと向かった。