Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
その時だった。
ガサガサ……ガサン…!
「ひっ!!」
茂みが揺れる音がしたかと思うと、カチュアが短い悲鳴をあげた。
一瞬にして緊張が走った。
屈んでいた体勢から素早く前方に目を向けると同時に腰のダガーを抜く。
ジルの目は音を発した物の正体を捉えていた。
と同時に信じられない思いで息を呑む。
茂みから現れた人影…。
いや、人ではない。
ジルはゴクンと唾液を飲み込んだ自分の喉の音を聞いた。
二足歩行で立つその影は、狼のような頭部に鋭い牙を持ち、ギラギラとした赤い目で辺りを窺っている。
体長は2mくらいだろうか。
長く伸びた毛深い手と足には、これまた黒く鋭い爪がついており、切り裂かれたら一溜まりもないだろう。
ガルルルル……。
低く喉を鳴らす奴は腹が減って切るのだろうか…。
茂みの傍らには、無惨にも肉を喰いちぎられた野ウサギが横たわり、絶命しているのがこの場所からでも確認できる。
次の獲物を探しているようだ。
ガタガタガタ…。
後方でカチュアが脅えているのが見なくてもわかった。
「しっ! 静かに」
いつの間にか気配に気づいたローグがカチュアの傍に寄って口元を覆う。
脅えた目でカチュアはコクコクと頷いてみせた。