Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
しかし、開けたこの場所では身を隠すところもない。
奴がジルたちを見つけるのに時間はかからなかった。
人間の姿を認めると、ニヤリと笑いを浮かべ、血の混ざった涎を垂らす。
ジルの額からつつーっと一筋の汗が流れた。
とても人語が通じるような相手ではない。
奴が求めているのは空腹を満たす為の獲物だ。
来るっ!
そう思った瞬間、獣人は地を蹴り大きく跳躍した。
鋭い爪を振りかぶり、こちらに襲いかかる。
「カチュア!」
ローグがカチュアを抱き寄せて身を翻す。
ジルも反対側に転がった。
ガギッ!
今までカチュアが佇んでいた岩に爪の跡が刻まれる。
耳障りな音が響く。
ジルは転がりながらも相手の場所を把握し、素早く身構えた。
そこへ更なる獣人の攻撃が降り注ぐ。
獣人の両腕から繰り出される攻撃を紙一重で躱し続ける。
体長は大きいくせに動きが素早い。
反撃の機会を見つけられない。
ジルはとてもじゃないが、あの爪を素手で受け止める気などなかった。
くっ………。
ビリッ!
獣人の爪によってマントが引き裂かれる。
それに気を取られた隙に、ジルの次の行動が遅れた。
鋭い爪がジルの頭に向けられる。
「ジルっ」
悲鳴のようなカチュアの叫び声が聞こえた。