Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
ガキッ!
かろうじて逆手に持ったダガーで爪を受け止めたが、力がもの凄い。
ガルルルル……。
獣人は尚も力を強め、小柄なジルの頭部を噛み砕こうと大きく牙を剥いた。
獣人の涎が顔に滴り落ちそうなその距離で、ジルの顔が苦痛に歪む。
ジルは押し倒される寸前にダガーを払い、腹部に思いっきり蹴りを喰らわせた。
数メートル後ろまで飛ばされた獣人の姿勢が整う暇など与えない。
追い討ちをかける様に地を蹴って走ると、ダガーを握り直して下から上へと薙ぎ払う。
ブシュッ!
ジルの肩の辺りまで、どす黒い返り血が飛んだ。
肉を切り裂いた手応えはあったものの、ダガーは獣人の肩を傷つけただけで、これでは致命傷にならない。
あの体勢で致命傷を避けるなんて…。
ジルは歯軋りしながら、一旦獣人との距離を保った。
身を低く構えながら、横目でカチュアの姿を確認する。
カチュアは脅えてはいるものの、ローグに誘導された場所で座り込んでいた。
こちらとは充分な距離がある。
あの場所なら、カチュアは一先ず安全と言えるだろう。
問題はこの獣人をどう始末するかだ。