Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
傷つけられた獣人は、痛みで怒りが頂点に達したかのようだった。
叫び声のような咆哮を森に響かせる。
びりびりと空気が震え、その振動で木々の葉が揺れる。
小鳥たちは驚き脅え、バサバサと一斉に飛びたった。
同時にまたも獣人が跳躍してジルに飛びかかった。
負傷した右腕は上がらないのか、今度は左腕を振り上げて距離を縮めてくる。
ジルは瞬時にダガーを逆手から順手に持ち替えると、獣人の攻撃を躱して背後に回り込む。
そこから背中にダガーを力任せに突き立てた。
痛みにもがく獣人は、身体をよじり、腕を大きく振るう。
その腕を捻り上げ、首元を蹴って地面に突っ伏しさせる。
突き立てたダガーを抜き、今度は延髄部分に深々と刺し込んだ。
肉を突き刺す気も他の悪い感触がダガーを通してジルの掌に伝わる。
ドロリとした生臭い血が流れ、赤く血走った目からは生気が失われた。
獣人は息絶えた。
「はぁ、はぁ……」
肩で大きく呼吸しながら、ダガーを引き抜く。
だが、ホッとしたのも束の間だった。
ダガーを払いながら前方を見上げてジルは愕然とした。