Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
先ほどの咆哮を聞いたのか、血の匂いを嗅ぎつけてきたのか、茂みの奥からまたしても獣人が姿を現したのだ。
今度は二匹。
大きな体をゆらりと揺らし、獲物を品定めするかのように辺りを窺う。
ほどなく奴らはこちらを見据えて、低く喉を鳴らし始めた。
いつでも飛びかかってこられるだろう。
ジルは舌打ちしながら叫んだ。
「ローグ!」
相棒の名を呼ぶ。
「あいよっ!」
背後からローグがジルを飛び越えて跳躍し、獣人に立ち向かう。
走りながらロングソードを抜き、左手に拳を握った。
それを見てジルも駆けた。
直後にローグが拳を突き出して魔法を放つ。
爆発の魔法。
獣人の足元に爆音が響き、土煙が舞う。
奴らは一瞬怯んだかに見えた。
ジルは更にスピードを加速させると、右側の獣人の脇を擦り抜け、目前に迫った大木に跳躍した。
相手が怯んでいる間に死角へと入る。
大木を蹴ってすくさま反転すると、獣人の後頭部目掛けて膝蹴りを見舞った。
左側の敵に的を絞ったローグは、相手に攻撃の機会を与えないままソードを次々に突き出した。
それでも執拗に攻撃の機を狙う獣人に、ロングソードを振り翳す。
ヒュンと風を切り裂く音と共に凄まじい勢いでソードが舞う。
ローグが獣人の喉元を突いたのと、ジルが首をへし折ったのはほぼ同時だった。
もんどりうって倒れる二匹の獣人を横目に、ローグはニヤリとした笑みをジルに向けた。
そんなローグを見ながら、ジルはようやく安堵の溜め息を漏らした。
加勢ならもう少し早くしてほしい…。
そう思いながら。
戦闘は終わった。