Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
まるで周囲の様子を気にしていないような。
いや、周りの喧騒など自身の目や耳に届いていないような。
『聖・アナの日』の賑やかな街中で、この男だけ一人ぽつんと取り残されたような、そんな風に伺えた。
「お兄さん、どうかしたの?」
少女は目を丸くして男の顔を覗き込んだ。
すると男は、ゆっくりではあるがその顔を持ち上げ、おぼろげな視線を少女に送った。
「今日はアナ様の日だよ。アナ様のご生誕をみんなでお祝いするの」
少女がそう言ってにっこり微笑んでも、その男はぼんやりと少女を眺めるだけだった。
「そんな顔してちゃ、アナ様ががっかりされるわ。
そうだ、エミリーがお兄さんにプレゼントをあげるね」
少女は何かいいことを思いついたようにパッと顔を輝かせると、コートのポケットをまさぐり、キャンディを一つ取り出した。
そしてそのキャンディを男の目の前に差し出す。
「今日は、幸せになってほしい人に贈り物をする日でもあるのよ」
少女がにっこりと微笑みかけると、男は虚ろな視線でそのキャンディを静かに受け取った。