Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
だが、大きく息を吸い込むと、彼女は口元をキュッと結んで続けた。
「でも、現実は変えられないし、変わらない…。
サダソとクリスが父の側で支えてくれるって…。
そして、私の帰りを待っててくれる。
だから、私は早く儀式を終えて帰らなくちゃ。
それが今の私にできることだもの」
悲しい事実を話しながらも、カチュアの瞳は意外にもしっかりしていた。
そんな風にジルには感じられた。
「でも、辛いでしょう?」
ジルの問いかけにカチュアはゆっくりと首を横に振った。
「辛くないと言えば嘘だけど、私がしっかりしなくちゃね。
あまり国民にも衝撃を与えたくないし」
強がっているのは充分に分かった。
カチュアの言葉にジルは静かに頷きながら、彼女に休むように促した。
彼女は相当疲れている。
長旅と今日のこと、そして国のことでストレスも余りあるほど抱えているのだ。
「今日はゆっくり休んで。
あなたがしっかりする為には休養も取らないと…」
ジルの言葉にカチュアは頷き、木に凭れかかると目を閉じた。
膝の上に落ちたブランケットを肩を包むように掛けてやる。
ローグを見ると、彼は小さな溜め息を漏らした。
ジルも同様に溜め息をつく。
こんな状況は予想もしていなかった。
しかし、二人には姫を無事に国に送り返すことしかできない。
歯痒い気持ちがジルの中に渦巻いていた。