Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
ローグの判断に基づき、廻り道をしながら進んでいくと、微かに流れる水の音が聞こえてきた。
この先に渓谷と川がある。
地図にも記載してあったのを思い出す。
確か洞窟は渓谷の向こうだったはず…。
木々の間を抜けながら更に進んでいくと、流れる水音もはっきり聞こえるようになってきた。
太陽の光を遮る木がなくなったかと思うと、切り立った渓谷の脇に出てきた。
脚を一歩踏み出すと、パラパラと音を立てて小石が渓谷の底に落ちていく。
数十メートル下を流れる川は、轟々と勢いよく流れていた。
水嵩が増したときに転がってきたのか、ゴツゴツとした大きな岩が川の中に点々としている。
その岩に水がぶつかり、激しく飛沫を上げていた。
カチュアは高いところが苦手なのだろう。
その光景を目にすると、怯んだように後ずさった。
渓谷の幅はさほど広くない。
せいぜい三十メートルあるくらいだろう。
だが、自然に作られた渓谷は情景こそ美しかったが、渡るとなれば困難を要する。
この谷の底まで降りて、また反対側を登ることはできそうもない。
「どこか渡れる場所でもあるのか…」
「ローグ。あそこに」
谷底を眺めながら言うローグに、ジルが何かを見つけて指差した。
川の上流。
緩やかにカーブを描いている渓谷に一本の吊り橋が架かっているのが見えた。
渓谷の一番狭い部分に架けられているようだ。
あれを渡るしかない。
ローグは頷くと、蹲っているカチュアの手を取り、橋に向かって歩き出した。