Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
ジルは立ち上がると、込み上げてくる嘔吐感に胸を押さえた。
この程度で倒れている訳にはいかない。
現状を確認しようと前を向いた。
ローグが蜘蛛の化け物と対峙しており、長い足がローグを押さえ込もうと次々に伸びて襲う。
その度に細かい砂埃が散って舞う。
蜘蛛の動きは思いもよらず速く、ローグは攻撃を払うか回避することしかできていないようだ。
ジルは落としてしまったダガーを拾い逆手に握り直すと、戦闘に向かって地を蹴った。
蜘蛛との距離を一気に縮め、気配を感じ取られたと同時に背後の死角へとまわりこむ。
蜘蛛が方向を変えようとしたときには、ジルは斜め後方より大きく踏み込んで宙に舞い、化け物の頭部目掛けて飛び蹴りを喰らわせた。
ぐらりと蜘蛛の体勢が崩れる。
ジルは着地する前に、
「ローグ!!」と叫んだ。
「ああ…」
ジルの声に反応するように返事をしたローグ。
ソードを持っていない左拳を握りしめ、気を拳に集中させた。
ぼぅと淡い光が拳を包む。
「これでも、喰らえっ!」
左拳を大きく振り上げ、蜘蛛に向かって突き出す。
ローグの掌から火の玉が三発繰り出された。
火の玉は緩く弧を描きながら蜘蛛に目掛けて跳んでいく。
直後に見事に蜘蛛を直撃し、大きな炎となって頭部を包んだ。
その炎の熱風は地面に伏したジルにも届いていた。
凄まじい熱さに顔を覆いながら立ち上がる。
メラメラと燃え上がる炎は、化け物の頭部を捉え、確実にそのものの呼吸する酸素を奪っていく。
熱さと苦しみにもがく蜘蛛は、その苦痛から逃れようと、ジタバタと暴れまわった。