Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
カチュアが真っ青な顔で、洞窟の入口際で立ち竦んでいる。
儀式を終えたのか、外の騒動が気になったのか、どちらにしても最悪なタイミングなことに変わりはない。
ガクガクと震え出した足を支えられなくなったのか、カチュアはその場でペタンと座り込んでしまった。
「カチュア! 下がって!」
蜘蛛の足をダガーで払いながらジルは叫んだ。
その隙をついて蜘蛛が攻撃を仕掛ける。
ジルは跳んでくる長い足の攻撃を避けることができなかった。
腹に鈍く重い衝撃を感じたかと思うと、身体が宙に浮き、そのまま後ろに吹っ飛ばされた。
「かはっ……」
自分の苦痛の息と、微かにカチュアの悲鳴が聞こえた。
勢いよく飛ばされたジルの身体を、森の茂みが受け止める。
ガサガサっと小枝と葉が擦れる音を上げ、更に奥へと転がっていく。
やがてその勢いが止まると、ジルは腹部を抱えて蹲った。
「ゲホッ! ゲホッ…」
喉の奥に酸っぱいものが込み上げ、咳き込みと嘔吐感が増す。
呼吸をするのも苦しいくらいだ。
更には茂みの小枝や葉で切った細かな傷がピリピリとした痛みを与えた。
カチュアを護らなければ。
痛みよりもその思いが勝ったのか、ジルはよろつきながらも立ち上がった。
ダメージがない訳ではない。
だが、ここで痛みに蹲っている訳にはいかない。
体勢を整えてローグの加勢に向かおうとしたとき、ふと視界にあるものが映り込んだ。
茂みの影に何かが描かれている。
あれは……。
それを目にしたとき、ジルは息を呑んだ。