【完】結婚させられました!?
まだ騒々しい女の騒ぎ声を聞きながら、
幕が閉じていく気配を感じる。
彼は───先輩は、どう思っていたんだ
ろうか。
きっと、驚いたように俺らを見てたんだ
ろうな。
幕がしっかりと閉じたとき、舞台裏に戻
ろうとした俺を、澤部がひき止めた。
「───……ちょっと、大倉!」
止まりたく、無かった。
あのキスを一生の思い出にして、このま
まどこかへ逃げてしまいたかったけど。
「……何?」
俺はまた、素直じゃない"大倉陸"に戻ら
なくてはならない。
今さら、素直だとか、本当の気持ちだと
か、そんなん。
伝えたって、手遅れなんだよ。
短く言葉を発しながら、僅かに口角を上
げて澤部を見つめれば、その大きな瞳が
少し揺れた。