sai
初めて父さんの涙を見た。母さんの涙は、よく見ていたけれど。
「在を病気の体で生んだお母さんを許して…ごめんね…」
何回、その言葉を聞いただろうか。その度に僕は、
「ぼくは、しあわせだよ。なのに、なんでそんなこというの?」



「どうして、ないているの?」
小さな体の細い腕から点滴が外れない様に気をつけながら、広すぎる病室のベッドからその横にある椅子に座る母さんを抱きしめた。母さんが、いつも僕にしてくれていた様に。


─その時、父さんは自分の病気を知っていただろうと思う。

父さんは、強かった。強い人だったよ。

だから父さんは、僕の憧れだった。



だから父さんが死んだ時
僕は初めて死の恐怖を感じた
でも、母さんを悲しませてはいけない、と、その気持ちを話す事は無かった
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