sai
在へ

今まであなたを自由にしてやれなくてごめんなさい
母さんね、在が、父さん…京さんの様にならないか、って、すごく怖かったの。もう2度と、大切なものを失いたくない。だから、在を縛り付けてしまった。
でも、それは間違っていた。
京さんが死んだ時、あなたは同じ病院に入院していたけれど、京さんは集中治療室で、あなたは無菌室にいたから会えなかったでしょう。京さんが入院している事さえ、知らせてなかったものね。その時、京さん最期にこう言ったの。
「…すまない、春子…俺は…弱…く…て…でも在は強い…あいつなら、大丈夫…だ…どうする…かはお前の自由…だ…が…出来るなら…あいつ…を…自由…にしてやってく」
本当は最初から、わかっていたの。在は、若いうちに必ず死ぬ、って。

だからこそ自由にしてやりたくって、だからこそ縛り付けておきたかった…


本当にごめんなさい



だから、これからは在の生きたい様に生きてください。


在がここに住む事を決めて、在の最期に会えない事が決まりました。
だから…
最後までわがままでごめんなさい
声を聞くと会いたくなるから、会いたくなると会いに行くから、会いに行くと、帰るのが辛いから
電話はしません。しないでください。手紙は書きません。書かないでください。
本当は、引っ越しも考えましたが、在や京さんとの想い出が詰まっている家から、離れる事は出来ませんでした。

どうか
幸せに

在がずっと憧れていた場所で…


さようなら
離れていても、母さんは在の母さんだからね。在は母さんと父さんの息子だからね。

        母より




僕の涙の跡よりも、多く、涙の乾いた跡がある。



母さんだった。


父さんが死んだ時以来だった…。




 僕はその手紙を持って真っ白なベッドに向かい、そこに体を沈めながら、手紙を指で粉々になるまで破いた。もう読まないと、決めたから。

母さんの様に、覚悟を決めた。
今、これから、この地で生きる事だけを考えて、生きていきたい。




忘れたいのではない。
僕の心に、ずっとあるから。
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