愛してなんて言わない
「あとで、屋上な。」
すれ違いざまに言ってきた言葉。
いつからだったかな、奏吾とこんな関係になったのは。
あの時は、奏吾が結実のことを好き、ということを知った日だった。
私は、ずっと前から好きだった奏吾の好きな人が具体的に分かってしまったことで、落ち込んでいた。
家に帰るのも、どこかに行くこともショックで出来なかった私は、教室で静かに泣いていた。
「…ヒックッ……ウ、ッ」
そんな時に。
「…え、神崎志織……どうした…?」
奏吾が来たんだ。
普通の人なら無視するかもしれない。
だけど奏吾は、優しいからか、最初から『行為』をしようと狙ってか、優しい声で話しかけてきたんだ。
その奏吾の顔は何故だか切なそうだった。
それでわかったんだ。
―あぁ、結実と何かあったんだ。―
「…奏吾君こそ、どうしたの?」
この言葉の意味は、特に深い意味はなかった。
結実とのことを聞いて、しっかり諦めよう。
そのくらいだった。
だけど、この言葉が関係を結ぶきっかけとなった。
「…慰めてくれよ。俺も慰めてやるから、な?」
奏吾は怪しい笑みを浮かべながら問いかけてきた。
この時、断っていたら変わっていたと思う。
けど、奏吾のことが好きな私は、少しでも奏吾の近くにいれたらいい、一回だけの夢でもいい、そんな甘い考えを持ってしまって。
「…いいよ」
受け入れてしまったんだ。
これが、この関係のスタートだった。
それから何回か、身体を重ねていくにつれてハマっていった。
身体を重ねる時、その時だけは奏吾の近くにいれることと、私だけの奏吾になることがすごく心地よくて、すごく幸せで。
どんどん堕ちていったんだ。