泡の人
視線が何だか痛く感じる。中には変な事を考えている人もいるだろう。

周りの目なんて坂森さんは気にしないだろうけれど、僕は気にする。

中々離してはくれない手。どうやったら離してくれるのかと考えた結果、

そんなに辛くはないけれど辛い表情をしてみる事にした。

腕が痛くなってそんな顔をしたんだ、とか体調が悪くなったと思ってくれるかもしれない。

実行をしてみるも結果は駄目。僕の顔すら見ようともしていなかったから。

すると突然、彼が立ち止まった。掴まれた腕も離してくれた。

見渡せばそこは湖のある公園。湖面には幾つかのボートが浮かび、

陸地では主に小さな親子連れが楽しそうに遊んでいるのが見える。

坂森さんの方を見たら、今までそこにいた筈なのにいなくなっている。

同時にざわつく声が聞こえてくる。声のする方を見れば湖に直接入ろうとしている彼の姿。

傍(はた)から見ればそれは入水自殺をする人間。

僕にそう見えるのだから、他の人だってきっとそう見える人もいるだろう。
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