泡の人
ボートから降りた後、僕達は木陰の中にあるベンチに腰掛けた。

想い出巡りと言っているけれど、考えてみれば坂森さんは此処の住人だったのだろうか?

否。正しくは“泡”として此処で生きていたのかと言うべき?

それを聞けば彼は本当にあっさりと答えてくれた。拍子抜けしてしまう。

「前に言っただろ?泡は生まれたら一生、産んだ人間の元で生きると」

すぐ消える命じゃない、と言うのは聞いたけれど…そんな事は聞いていない気がする。

突っ込んだらいけないと思い、続けて話を聞いた。

「その人間が生きている限り、姿形はなくとも泡は傍を離れない。

例えるならば幽霊と言うべきか。あ、悪霊なんかじゃないからな?

まあそれはさておき。水の中にダイブした時だけその人間の元に姿を現す。そんな存在。

だからある意味では此処の住人だったと言うべきかな」

要約すると、坂森さんを産んだ(?)人はこの辺りに住んでいたと言う事になる。

つまりはそれを懐かしもうとしていたと言う事…と見て良いだろうか?

納得しかけた時、坂森さんはある話を突然し始めた。
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