泡の人
3.淡い夢
俺が産まれたのはそれはとても綺麗な満月の夜。

短い黒髪が印象的な男が俺の産みの親。こいつが俺の主(あるじ)。

男の名前は記憶が曖昧で覚えていない。

覚えているのは容姿。それと小さな町の少し裕福な家の人間だと言う事程度。

完璧な人間なんていないから、誰からも好かれる訳ではない。

だけどこの町ではほぼ全員と言って良いだろう。好かれていた。

何時も笑顔を浮かべているが、あいつは誰もいない所で悲しげな顔をしている。

「大丈夫、ボクはまだ生きている」

その表情で誰かに言う訳でもなくボソリと呟いている。

この男には変わった癖がある。それは近くにある湖に身を浮かべる事。

晴れた日の夜、それは何時も実行されていた。

「こうしている時が、1番生きている事を実感するなあ…」

そうあいつは語っていた事があった。
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