泡の人
男はまだ落ち込んでいた。部屋から殆ど出る事もなく、時間だけが過ぎる。

ある夜にあいつは外へ出た。雨がパラパラと静かに降っている。

向かう先にある物は湖。この時俺は、はっとした。

晴れた夜にしか湖に行かないこの男が、少量ではあるけど雨が降っているこんな夜に出歩かない。

死ぬつもりなのだろうか?それを考えると、俺の命もあと僅かと言う事になる。

必死になって止めたい。まだ死なないでほしい、俺が傍にいると言いたい。

でもそれは叶わない。俺は泡であって人間ではない。喋る事もその場に姿を現す事も出来ない。

諦めようとしたその時、男はやはり何時ものように湖面に浮かんだ。

死ぬつもりじゃなかったのか?久々に姿を現し、彼の傍を通りすぎる。

「あの人だけが全てじゃない…永遠の別れをした訳じゃないし。

永遠の別れなら後を追ってしまう。でも何処かで生きているならば、また会える。

その時は、ボクを捨てた事を後悔させるくらいにならないと。だから自殺はしない」
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