泡の人
まるでそれは俺達に話しているかのようにも聞こえた。

何らかの決意。深い悲しみの中で、ずっと抑えこんでいたのだろう。

“大失恋が原因の自殺衝動”を。ある意味では女は支えだったのだから。

衝動が鎮まった後に、どう生きるのかを…つまりは生きる支えを男は考えていたのかもしれない。

そしてその考えた決意が揺らぐ前に、此処で誓いたかったのだろう。良かった。俺は心底そう思った。


男はこの翌日から再び笑顔を取り戻した。まるで何事もなかったかのように、幸せそうだ。

この5年後には新たな恋人を見つけ、結婚をして子供も産まれた。

俺もとても喜んだ。だけど永遠の片思いをし続けている俺にとって、複雑でもあった。

どうして俺は泡なのか。生まれ変われるならば次は人間になって、この男に想いを告げたい。

性別なんて関係ない。でも出来れば女が良かった。まあ男でも何とかなるだろう。

無理ならこの男の生まれ変わりか、血を継いだ奴にでも。そんな淡い夢を描いていた。

何十年もずっと寄り添ってきたある日、男は死んだ。俺も勿論死んだ。
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