泡の人
我に返り、名乗ろうとした時に違和感を感じた。

この低音の声を僕は何処かで聞いていた。

記憶を遡(さかのぼ)らせれば、思い出すのは昨晩の出来事。

でもただ声が似ているだけなのかもしれない。

それでも驚きの声が漏れそうになる。それを堪えて僕は平静を装う。

一通りの用件を話し挨拶を済ませると、森坂さんも自身を名乗った。

「森坂リュウ。前世は泡」

この一言で僕は悟った。この人はそっち系の人間なんだ、と。

自己紹介で前世を言うなんて変。あまり関わらない方が良いのかな、と思う。

「ん?そういえばお前……」

何かに気付いたような森坂さん。僕は彼が言葉を続ける前に、その場を去った。

ただ、逃げたのは良かったのだけどそれは無駄な行為。森坂さんがしつこい人間であれば。

隣の家だから彼だって来ようと思えば来れるし、僕がこの後すぐに居留守を使ってもすぐにバレる。

彼がしつこい人間でない事を願った。
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