恋愛指導は秘密のくちづけで
「ちょっと待っててください」


カバンの中からスケジュール帳を取り出す。


「今月は模試の準備で忙しいんで、6月の頭ぐらいでどうですか?」


「6月かあ。ちょうど文化祭が終わった頃か。9日の日曜日でどうだ?」


「大丈夫です」


「楽しみにしているから」


「わたしも。それでは失礼します」


電話を切る。


よく言葉がスラスラ出てきたと自分に呆れてしまう。


スケジュール帳の週末なんて空いてるに決まっているのに。


9日の日付にペンで丸をつけてスケジュール帳を閉じた。


会いたくなかったのに、どうして心の中で嬉しがるんだろう。


こんな自分じゃあなかったはずなのに。


溜め息をひとつして、台所に行って冷蔵庫の中から残っていた缶ビールに手を出した。
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