恋愛指導は秘密のくちづけで
「どうした、浮かない顔して」


情報雑誌に載っていた駅から近い眺めのいいビルの最上階のレストランを予約してくれた。


けれどガラス窓には無数の雨粒がちりばめられ、その合間を縫って小さな街灯の光がまたたいている。


「いえ、別に」


テーブルにともされたロウソクの火がゆれる。


「ならいいんだが」


塚越先生が笑う。ロウソク越しの先生の笑顔がゆれたのは、灯された火のせいだと思うことにした。


洗練された料理、ワインはどれもおいしいし、先生との会話も楽しい。


だけど、過ごしているこの時間が自分を満たしているのかわからなくなった。望んだはずなのに。


時折スーツの内ポケットから携帯を取り出し、ちょっと待っててとそそくさとテーブルを離れていく。


自然とすーっと心の奥底の熱がひいていっているように感じた。
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