恋愛指導は秘密のくちづけで
「あたりまえだろう。嫌いなら話しかけない」


ぬるい風が頬をかすめる。


「だいぶ酔いがさめただろう。さ、いこうか」


塚越先生の左手はわたしの右手を握る。


先生の手からにじむ熱と汗が伝わってきた。


ひっぱられるように脇の道に入る。


大きな屋根のある自転車置き場へ連れていかれる。


傘を閉じ、中に入る。雨粒が強く屋根にたたきつけられている音が響く。


両隅には汚れた自転車が隣の自転車と絡み合うようにとまっている。


「柏葉」


塚越先生は自ら持っていた傘を地面に叩きつけた。


目をとじる暇もなく、くちびるが触れる。


何の感情もわかない。ただ触れているだけしか感じない。
< 220 / 263 >

この作品をシェア

pagetop