聴かせて、天辺の青
(3) 音が聴こえた
◇ 意外な発見
彼が働き始めて一週間、特に問題が起きることもなく職場に馴染んでいた。
彼の指導員を任せられた海斗は、もちろん不服そうにしていたし、まだ疑っている。だけど頼まれた手前、断ることも出来ず渋々仕事を教えていた。
仕方ない、本当は嫌だ。と言いながらも、彼に対して意外と丁寧に教えてあげるのが海斗らしい。
彼は仕事の覚えも悪くないし、頼んだことはレスポンスよく済ませてしまう。それさえ気に入らないと、海斗は彼の目を盗んで私に言う。
実は海斗なりに葛藤しているのかもしれない。彼が本当に悪人か、そうでないのか。
私にだってわからない。
働きっぷりを見ていると普通に真面目な人。それだけで信じてしまえるものなのかと問われると、信じてはいけない気もする。
ただひとつ、働きっぷり以外で見つけた彼の欠点はあまり愛想がよくないこと。
いつも口を尖らせて、決して感情を表に出さない。話していても声をあげて笑う笑こともない。
もしかすると彼は何かが気に入らないから無愛想なんじゃなくて、元々の外見や性格自体が無愛想なんじゃないか。
だとしたら、すごく損してると思う。嘘でもいいから、外面だけでもにこやかにできないものか。