聴かせて、天辺の青


小さな川沿いの道路を山側に向かって車を走らせる。


日が暮れて、街灯が頼りなさげに照らし出したのは長閑な景色。山が近づくにつれて密集していた家が疎らになり、田畑の中に集落が点在している。


そんな景色とは対照的に、目の前に迫りつつある小高い山並みの隙間から高速道路が覗いている。煌々と道路を照らし出す照明の光は、長閑な景色には不釣り合いなほど。


助手席で退屈そうに外を眺めていた彼が、ふと見上げた。

「立派な道路が通ってるんだ」

「便利だよ、都会には二時間ぐらいで出られるから、電車を乗り換えるよりも早いし」


東京に居たのなら高速道路なんて珍しくもないだろうに、「ふうん」と答えた彼はじっと見上げたまま。何を考えているんだか、相変わらずわからない。


基本的に車内の会話はないけど、もう慣れた。彼はこんな人だと思ってるし。


強盗犯かもしれないという疑いも、すっかり薄れてしまっている。だって彼が何かしようと企んでたのなら、いつでも機会はあったのだ。


だから彼が強盗犯が着ていたのとよく似た黒いジャケットを着ていても、まったく気にならなくなっていた。


正確には、気にすることを忘れてしまっていた。



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