聴かせて、天辺の青
ゆっくりとしたペースで飲み始めた皆の顔色は、照明に映し出された桜の花の色に負けないほど明るい。
仕事中でも和やかな雰囲気の人たちばかり、彼らと接しているうちに海棠さんの顔色は良くなってきていると感じていた。職場で気さくに話している姿もよく見られる。
ただし、私には見せたことはない笑顔で。
「ここに来る前は何の仕事してたの?」
「どうして地元に帰らずに、こんな田舎に来たの?」
「田舎の親と喧嘩したのか?」
お酒が回り始めると、やがて彼に対する質問攻め。抑えていた疑問が、次々と溢れ出る。それでも彼は嫌な顔をすることもない。
「東京に居る時は、レンタル屋でバイトをしていたんです。実家の親は上京に反対してたから帰りにくくて……もう少し経って、忘れた頃に帰ろうとは思っているんです」
彼は笑顔で答える。私と話す時よりも明らかに言葉数が多い。そんなに私が気に入らないのか。
「何で東京に出たんだ? 進学? 就職? いや、そんな理由じゃ親に反対されないか」
「もしかして、一人息子か?」
彼の答えがさらなる憶測を呼び、質問は尽きない。
「はい、一人っ子です。親は地元でサラリーマンしてるから、僕にも地元で就職してほしかったらしいけど」
親の反対を押し切って上京したものの、上手く行かずに帰るに帰れなくなったという訳か。