聴かせて、天辺の青
「この辺りでもみんな進学や就職で上京したり、他県に移ってくけど帰って来ないよな」
厨房で調理を担当してるおじさんが、ぽつりと零した。寂しそうに目を細めて、ぐっと缶ビールを仰ぐ。
隣に座っていたおじさんが肩を抱いて、宥めるように大きく頷いた。
「だよなぁ……こんな田舎には学校も就職先もろくに無いからな、仕方ないさ」
皆が黙り込んだ。
ここを出て行ったら、まず帰ってくることはない。おじさんの息子もそうだし、このメンバーのうち県外に出て行った親族のいる人は一人二人じゃない。
「瑞香ちゃんの幼馴染みも上京したんだよね、確か、うちの子と同じ大学に入ったって言ってたけど最近帰って来てる?」
しんみりとした空気の中、おばちゃんの一人が私の顔を覗き込む。
幼馴染みとは英司のこと、おばちゃんの息子は三歳年下で、英司と同じ大学に入学して卒業後も東京で就職した。
「うん、最近はお正月しか帰ってきてないみたい。もう二年ぐらい会ってないから知らないけどね」
「ウチも同じ、今度のゴールデンウイークも帰らないからって連絡先があったばかりだよ。ほんとに薄情なものだよね」
口を尖らせるおばちゃんの顔は、はっきりと寂しいと書いてある。
英司もそうだった。仕事が忙しいからと言って、だんだん帰ってこなくなったんだ。最初は毎月一度、連休毎には必ず帰ってきてたのに。