聴かせて、天辺の青


「遅くなってゴメンなさい」


皆が背負っていた重苦しい空気を取っ払ったのは、河村さんの声だった。河村さんの一歩後ろには、海斗が両手に大きな買い物袋を提げている。


「すまんね、先に始めさせてもらってるよ、それは何? 酒か?」


おじさんが買い物袋を覗き込む。海斗はにやっと笑って、私たちの輪の中心に買い物袋を置いた。


「もちろんですよ、河村さんからの差し入れです」

「たぶん足りないと思ったから買ってきたの」


河村さんが買い物袋から日本酒の瓶を取り出してみせると、おじさんたちは目を輝かせる。海斗はすぐに紙コップを配り始めた。


皆が一通り紙コップや缶ビールを手にしたのを確認して、おじさんが立ち上がる。


「よしっ、皆揃ったし乾杯しようか、おい、お前は何してるんだ?」


くいっとおじさんが顎で指した先では、海斗が紙コップにお茶を注いでいる。そばに居た別のおじさんが新たな紙コップを手渡そうとするけど、海斗は首を横に振った。


「ごめん、今日は俺飲めないだ。車運転するから」

「ちっ、何でお前が運転手してるんだ? 誰かに載っけて帰ってもらえばいいだろう? なあ?」


と言って振り返ったおじさんと、ばっちり目が合ったのは私。


「私が送ろうか?」


「いいよ、悪いけど今日は飲むのやめとくよ。最近飲み過ぎてるから」


察してくれと言いたげに、海斗は少し困惑したような笑みを見せた。


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