聴かせて、天辺の青
既に出来上がってる人たちもいるけど、改めて乾杯。皆の輪の中で、彼も柔らかな表情を見せている。
「そういえば、この前の強盗犯、もう捕まったのか?」
ふいに、おじさんのひとりが隣にいた海斗の肩にもたれ掛かった。
「いや、何にも聞いてないから、まだ捕まってないんじゃないっすか?」
海斗はおじさんに同調しながら、斜め前に座っている彼にちらりと視線を送る。ちょうど顔を上げた彼と目が合って、海斗が気まずそうに苦笑を浮かべる。彼はよくわからない風な顔をしていたけど、笑って頭を下げた。
海斗はまだ、彼を疑っているんだ。
同時に彼の服装に目が留まる。
彼の羽織っているのは、あの黒いジャケット。防犯カメラに写った犯人の着ていたジャケットと似ていると言ってたもの。
何てタイミングが悪い……
ここに居るメンバーは皆、防犯カメラの写真を観ているだろう。
どうして、気づかなかったんだろう。おばちゃんの宿を出る時に気づいてたら、着ないようにと言えたかもしれないのに。
だけど皆、彼のジャケットには気づいていない様子。どこにでもあるような黒いジャケットだ。同じ背格好の人が着ていたら、皆同じように見えるはずと言い聞かせる。