聴かせて、天辺の青


皆が気持ち良さそうな様子で笑い合う中、海斗の容が見えない。さっきまで隣のおじさんと、いい調子で肩を寄せ合っていたのに。


だけど誰も気にしていないのか、海棠さんを質問攻めにしては笑ったり手を打ってみたり。


ふいに河村さんがよろりと立ち上がる。覚束ない足取りで歩き出す河村さんに、おじさんが心配そうに声を掛けた。


「河村さん、どうした?」

「ん、ちょっとトイレ行ってくる」


ひらひらと手を振って笑うけど、とろんとした目はどう見ても大丈夫ではなさそうで。


「河村さん、私も一緒に行きます」


と、私は後を追った。


トイレは土手の隣の公園にある。普段は暗いからひとり行くなんて無理だけど、今の時期は公園の照明が点いていて明るい。トイレの近くで花見してる人たちもいるし、全然怖くない。


「瑞香ちゃん、ごめんね」

「いいですよ、今日は車じゃなかったんですね、送りましょうか?」


「ああ、それは大丈夫。藤本君が送ってくれるから……ありがとうね」


海斗は飲むから乗せてもらうって言ってたのに、反対に河村さんを乗せてきたんだ。


私の手を離した途端、河村さんがトイレの入口の段差に躓いて転けそうになる。危なっかしくて仕方ない。


お節介だけど個室まで送り届けて、


「外で待ってますから、気をつけてくださいね」


と言ってトイレの出入口で待つことにした。

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