聴かせて、天辺の青


ところが、河村さんがなかなか出てこない。もう五分、いや十分ぐらい待ってるだろうか。


気分が悪くなって吐いてるのかもしれないと思い、個室のドアを叩いた。


「河村さん、大丈夫ですか? 気分悪いんですか?」


呼び掛けてみたら、中から嗚咽が漏れ聴こえてくるけど返事はない。


「河村さん? 大丈夫ですか?」

「ん……大丈夫、ごめん……ごめんね」


呼び掛けに答えた河村さんの声は絞り出すように苦しげで、はっきりと涙混じりだとわかった。


こんな時、どうしたらいいんだろう。考えながら、再びドアを叩く。


「河村さん、出られます? もう帰りましょう。今から私が送りますから、ね、皆にはちゃんと話して、先に失礼しましょう」


暫しの沈黙の後、個室のドアが重々しく開いた。真っ赤な顔をした河村さんが涙を拭っている。酔っ払って吐いてたんじゃなくて、泣いてたんだ。


「河村さん、皆には私から話しますから、早く帰りましょう」


一歩踏み出そうとする河村さんに、手を差し伸べた。


「瑞香ちゃん、ごめん……私、ホントに情けなくて……」


と言い掛けて、河村さんが私にもたれ掛かってくる。咄嗟に抱き止めたら、河村さんの手が私の背中に回ってきた。しがみつくように、ぎゅっと力を込めて。





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