聴かせて、天辺の青
私の体に抱きついて、河村さんが体を震わせる。肩を揺らして、嗚咽を漏らして苦しげに。
あまりにも急な事に、私はただ抱き止めることしかできない。どうしたのか尋ねたいのに、何を尋ねたらいいのか、尋ねていいものかさえわからない。
いつしか河村さんの体の震えが治まって、腕の力が抜けてく。河村さんが、ゆっくりと顔を上げた。
「ごめん、私……ちょっと、飲み過ぎたみたい」
か細い声で告げた河村さんは笑顔を見せてくれたけど、どこか無理しているのがわかる。その顔は何かに耐えているようにも見えて、何かを隠しているんじゃないだろうかと思った。
「河村さん、どうしたんですか? 私でよかったら、話してくれませんか?」
離れようとする腕を掴んだら、河村さんの瞼がぴくりと震えた。そして、表情を隠すように目を伏せる。
やっぱり、何かあるんだ。
確信した私は目を逸らさずに、河村さんの答えを待つ。
きゅっと唇を噛んでいた河村さんが、恐る恐る私を見上げた。潤んだ瞳が揺れている。
「瑞香ちゃん、あのね……」
「瑞香ぁ? 河村さーん、大丈夫ですか?」
河村さんの言葉を遮ったのは海斗の声。トイレの外から飛び込んだ声は、私たちを心配して掛けられたもの。
「はぁーい、大丈夫よ」
目元を拭った河村さんは、はっきりとした声で返した。