聴かせて、天辺の青
戻った私を、皆の心配そうな顔が迎える。心配してるのは私ではなく河村さん。
「瑞香ちゃん、海斗がそっちに行っただろ? 会わなかったか? 河村さんは?」
「体調が悪くなったから先に帰りました。皆に申し訳ないって謝ってました」
皆の視線がブルーシートの上の、河村さんの座っていた辺りへと注がれる。そこにポツンと取り残されたバッグを指差して、おじさんが目を見張る。
「これ、河村さんの鞄だろ? 瑞香ちゃん、急いで持って行ってあげな! まだ駐車場にいるだろ」
「はい、行ってきます」
私はバッグを取り、全力で駆け出した。河村さんはゆっくりとしか歩けなさそうだから、まだ駐車場にいるはず。
だだっ広い駐車場の端の方に、海斗の車の後姿が見える。今時珍しい車高の低いスポーティな車だからわかりやすい。
よかった、まだエンジンも点いていない。駆け寄ってくと、駐車場の照明に車内が映し出される。後部ガラスに映る二つの影。
運転席に座った海斗の頭が、助手席へと傾いていく。まっすぐ伸ばした手が、助手席の河村さんを引き寄せる。
私は足を止めた。
今、近づいてはいけない。
本当は見てはいけないのだ。
二人の影が重なり合って揺れている。
私はバッグを握り締めたまま、二人が離れるのを息を潜めて待つしかなかった。