聴かせて、天辺の青
「ごめん、飲み過ぎた俺も悪い。俺、何て言った? 余計なこと話さなかった?」
はいはい、もういいよ。口先だけで謝るのなら、謝ってもらわなくてもいい。何にも思い出してくれなくてもいいから、いい加減にこの話はやめたい。
「何にも話してない、ぼーっと車の中から海と桜を見てただけだから」
誤魔化してるのに気づかない彼は、軽く頷いてる。
正直に話してしまうのは、さすがに抵抗がある。彼が恥ずかしい思いをする云々ではなくて、私自身が口に出すのが恥ずかしいから。
「そっか、今度は気をつけるよ。で、アンタはどうして仕事辞めたの?」
彼は覚えてないことを反省してる様子もない軽いノリ。まだしつこく尋ねてくるけど、私のことを尋ねる前に自分のことを洗いざらい話してよ。
「どうして私が話さなきゃいけないの? あなたが先に話したら?」
突き返したら、いきなり彼の手が伸びてきた。テーブルに身を乗り出してきて、頬杖をついてる私の腕を掴んで思いきり引き寄せる。かくんと落ちた頭を起こした。
「なに?」
彼の顔が間近に迫る。
引き寄せられた手は、いつの間にか彼の両手に包まれていた。いや、押さえ込まれていると言った方が適切なのかもしれない。