聴かせて、天辺の青
彼が私を見てる。
解放された手はテーブルの上に取り残されて、未だに動かせない。
意味不明な行動に、どうしていいのか頭の中が整理できない。安定しない思考のまま話し出してしまったら、余計な事まで話してしまいそうで怖い。
それに知りたいなんて言われたからって、素直に話してしまうのもバカらしい。第一、私のことを知りたいと言った彼の真意がいまいちわからない。べつに理解しようとも思わないんだけど。
でも、話そうと思ってしまった。
私が話したら、彼も隠していることを話し出すかもしれないという望みを抱いて。
「隣県の短大を卒業して、そのまま就職したけど……人間関係がうっとおしくなって辞めたの。ほら、いろいろと人付き合いって面倒なことがあるでしょう?」
ああ、バカだ。
どうして、彼に同意なんて求めてるんだろう。彼にわかるはずないのに。
「うん、わかる。ややこしい人って、どこにでもいるもんだよ。俺の周りにも変なヤツが居たし……で、どうしてエイジと別れたの?」
やっぱり尋ねるんだ、と思った。
きっと彼が一番気になってるのは、英司と別れた原因なんだろう。そんなこと、どうでもいいじゃない。私は忘れてしまいたいのに、今さら蒸し返さないでほしい。