聴かせて、天辺の青
顔を上げられない。
彼の顔なんて、見ることができない。
カップの中で小刻みに波打つコーヒーを見つめて、唇を噛んだ。これ以上、視界がぼやけてしまわないように。
握り締めた手をそのままに、反対の手が左の頬に触れる。包み込むように、ゆっくり滑らせた指先が目尻に触れた。
「痛かったな……ごめん」
彼の声を聴いた途端に、熱いものが零れた。胸が締め付けられる苦しさに耐えられず、息を吐いて唇を噛み直そうとするのに……無理。
「私だよ、逃げ帰ってきたのは……会社を辞めて、帰ってきたんだよ」
声になっていたのか、彼の耳に届いたのか、それさえもわからない。
もう、カップの中のコーヒーは見えなくなっていた。目を伏せたら、ぱたぱたと雫が零れ落ちていく。
どうして話してしまったんだろう。
思い出したくなかったのに、話したくもなかったのに。後悔ばかりが胸の中で暴れてる。
「ごめんな、俺と同じだったんだな」
握り締めた手と頬を包んだ手から伝わる温もりと力強さが、彼の奏でたピアノの音色を思い出させる。
私は目を閉じたまま、音色を追いかけていた。