聴かせて、天辺の青


課長から解放された後、どうやって家に帰ったのか覚えていない。


気づいたら家に居て、いつも座るクッションの上に座り込んでいた。手には携帯電話を握り締めて、心が軋む音に耳を澄ませて。


ずっと耐えてきた心が、今にも倒れそうなほどぐらついてる。あんなにも頑丈で、決して揺らぐことはないと思っていたのが今は幻。


堰を切ったように溢れ出す気持ちを抑えられなくて、英司に電話を掛けていた。まだ仕事中だとわかっていたのに、どうしても声が聴きたくて。


来週の土曜日には英司が会いに来てくれると約束していたのに、それまで待てなかった。


十回ほどコールが鳴った後、ようやく聴こえた英司の声は小さくて遠慮がち。明らかに今は話してはいけないと言いたげな声だったけど、既に私は言葉を発してしまっていた。


「今から、会いに行っていい?」


英司の返事はない。


ほんの数秒の沈黙が延々と続くような気がして、不安が溢れ出す。それを隠したくて、閉じ込めたくて、続けざまに問い掛けた。


「お願い、今、会いたい……」


お願い、答えて。



< 183 / 437 >

この作品をシェア

pagetop