聴かせて、天辺の青
『わかった、すぐにおいで……』
そう答えてくれると思っていた。
思い込んで疑わなかった。
だけど、英司の答えは違っていた。
「ごめん、打ち合わせ中だから、終わったら掛け直す」
小さく早口で告げた声が途切れて、代わりに聴こえてきたのは電話が切れたことを知らせるビジートーン。携帯電話を耳に当てたまま、下ろすことができない私を嘲笑うように鳴り続ける。
ぽつんと取り残された私の思考は停止していて、こんな時なのに涙さえ出てこない。
期待外れの言葉に傷ついただけじゃない。私の訴えが届かなかったこと、英司の声が私を否定しているように聴こえてしまったことも要因のひとつ。
今まで決して無理を言わないで、英司に合わせてきたのに。一度だけのわがままを、どうして聞いてもらえないの?
英司が仕事中で、打ち合わせ中に電話を掛けてしまった私に否があることさえ考えられなくて、携帯電話の電源を落とした。
今思うと、強引でも黙って東京へ行き、英司に会えばよかったのかもしれない。