聴かせて、天辺の青
私が話している間、彼がずっと手を握り締めてくれている。時折声が震えて途切れそうになると、ぎゅっと力を込めて。
まるで崩れ落ちそうな心を引き止めて、支えてくれているような強さが嬉しい。
だから今は、振り払おうと思わなかった。今だけは、今だけでいいから、誰かの温もりを感じていたい。
そうでなければ、思い出すことは辛過ぎる。
次の日の朝、職場に休むと連絡をして、それっきり。二度と職場には行かないで辞めた。
最後の手続きも全部郵送で済ませて、アパートを引き払うと決めてから両親に打ち明けた。両親とも驚いていたけれど深くは追及することはなく、帰ってくる日が決まったら教えてと言うだけだった。
同じ県内で就職し、離れて住んでいた妹が珍しく会いに来たのは母の差し金。滅多に連絡さえして来なかったのに、妙に懐っこく根掘り葉掘り聞き出そうとするから気持ち悪い上にバレバレ。
「どうして辞めたの? って、しつこくて……ムカついたから、私も意地になって話してあげなかったんだ」
笑って見せたけど、彼は真剣な目を私に注いだまま笑い返そうともしない。もし少しでも笑ってくれたら、もっと軽いノリで話せたのだろうか。