聴かせて、天辺の青


「英司との約束は断った、前日にドタキャン」


言い切るのと同時に口角を上げて、得意げな顔をしてみせる。決して逸らそうとしない彼の視線を意識して。笑い返してくれるかな……と期待を込めて。


でも彼は、笑い返してはくれない。


「どうして? 来てくれるって言ってたんだろ?」

「うん、でも断った」


職場に辞めると連絡した日の夜、英司から掛かってきた電話に出た。一日掛けて悩んだ末、私の決意は固まっていた。


英司は昨夜の事を謝ってくれたけど、私は職場のことを打ち明けたりしない。もう泣いたりしなかったし、縋りつこうとも思わなかった。


いつもどおり仕事が忙しいと話す英司の声を、ただ淡々と聞いて軽く返事をして。次に電話できるのは週末かもしれないと申し訳なさそうに言う英司に、『わかった』と聞き分けよく返して。


ほんの十分ほどで電話を切った。
いつもと同じ、何にも変わらない。


私は言わなかった。
職場でのことも、仕事を辞めたことも。


次の週の金曜日、私から英司に電話した。明日は会えないから来ないで、職場の行事があるのを忘れていたからと嘘をついて。


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