聴かせて、天辺の青
拗ねた子供みたいに、彼は黙って座り込んでいる。俯き気味の顔を強張らせて、きゅっと噛んだ唇が何かを堪えているように見える。
おばちゃんが呆れたように、息を吐いた。
「あなた、そんなことのためにここに来たの? 事情は知らないけど、安易に考える事じゃないでしょう?」
柔らかな表情を一変させて、おばちゃんは語気を強めた。彼を睨みつける目に、怒りと険しさとが滲んでいる。
彼は慌てて首を振った。
「違います、ただ、海を見ていただけです。たぶん、彼女も誤解してたんだと思うけど……」
と言って、ちらりと私を見る。
今さら助けを求めているの?
と思わせる縋るような目をして。
「どうして、あんな時間に海なんかに居たの? まだ始発の電車も走ってない時間だよ?」
口を突いて出た言葉は、知らず知らずきつくなってしまう。さっき言い合った時の応酬のつもりはないけれど。
「いや、ここに来たのは昨日の夕方だ。電車に乗ってたら海が見えたから、とりあえず降りた。ずっと海沿いを歩いてきて、あの港で一晩明かしたんだ」
ますます焦った様子で話す彼を、おばちゃんが冷ややかに見つめている。彼の話の真偽を見極めようとしているのだろうか。