聴かせて、天辺の青
「彼女は高校の同級生で、成功したら迎えに行くと約束してた。だけど、迎えに行けなかった」
と言って、彼は目を細めた。
一瞬、そこに映ったのは後悔。
必死で笑みを作ろうとする口元が、小さく震えて痛々しい。
「どうして迎えに行かなかったの? 待っていたんでしょう? 彼女は東京に来なかったの?」
「彼女には絶対に来るなと言ってた、顔を見たら甘えてしまいそうだったから……彼女は健気に待っててくれたよ。だけど欲が出たんだ、まだ迎えに行けない。もっと大きな物を掴むつもりだった」
彼の手に力が篭る。痛いほど。
彼の言う『成功』や『大きな物』が何かはわからない。でも彼が欲しかったのは、中途半端な成功ではなかったんだということだけはわかった。
すぐに崩れ落ちてしまうようなモノではなく、強固で揺るがないモノを手に入れようとしていたんだ。
私は違う。
何も欲しいとは思わなかった。
ただ欲しかったのは、一番辛い時に傍に居てくれる存在。どうしようもない時に、温かく包み込んでくれる存在。
その存在に、英司はなり得なかった。