聴かせて、天辺の青


「何を考えていたのか知らないけど、一度落ち着いて、周りのことも考えてみなさいね。ひとつの事ばかり考えていないで、少し気持ちを離して、客観的に見てみることも大切よ」


ゆっくりと丁寧に、おばちゃんが言い聞かせる。


唇を噛んでいた彼が、頷くように目を伏せた。膝の上に握り締めた拳が、僅かに震えている。


「俺が周りのことを考えても、周りは俺のことを考えてはくれない。どうせ、空回りなんだ」


彼は呟いた。抑揚のない声で、伏せていた目を見開いて。


その言葉は、ここには居ない誰かに対して向けられている。こんな所まで来て、海を見ていた理由だろう。


「あなたは、自分のことを考えてほしいの?だから自暴自棄になってるの?情けないわね、ただの我儘でしかないじゃない」


俯いて肩を震わせる彼を見つめるおばちゃんは、最近見たことないほど怖い顔をしている。


「すみませんでした」


小さな声だけど、顔を上げた彼の目はおばちゃんを真っ直ぐに見つめている。おばちゃんは、大きく頷き返した。


「ところで、あなたの名前は?」

「海棠です、海棠宏樹(かいどうひろき)です」

「海棠さん、よろしくね。私は山吹花恵(やまぶきはなえ)、彼女は吉野瑞香(よしのみずか)ちゃん」


恥ずかしそうな彼に、おばちゃんはにこりと微笑んだ。


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