聴かせて、天辺の青
ところが、私よりも海斗の方が早かった。
「河村さん、用事があるから遅れるって。俺、鍵もらいに行ってくる」
と言って、私を置き去りに車へと駆けていく。
「海斗、待って」
「なに?」
慌てて呼び止めたら、車のドアに手を伸ばしたまま振り向いた。めんどくさそうに返した口調は素っ気ないけれど、表情が強張っている。切れた口の端が痛々しくて、直視できない。
「私が行こうか?」
「なんで? いいよ、車の方が速いから」
「だったら、私も一緒に行っていい?」
「は? ついて来なくてもいいだろ、鍵を受け取りに行くだけだし」
ダメだ、埒が明かない。
その場に自転車を停めて、車に走った。
「おい、瑞香! 何してんだ!」
海斗が呼び止めるのも聞かずに、急いで助手席に乗り込む。勢いよくドアを閉めたら、窓の向こうに彼が見えた。
意外と冷静な顔をしている。少し口角が上がったように見えたのは、気のせいじゃない。
「何してんだよ、早く降りろって、俺ひとりで行くって」
運転席のドアを開けて、苛立った海斗が覗き込む。
凄んでも無駄。
「ダメ、私も行く」
シートベルトを閉めて、助手席のドアを内側からロックした。